(中野友加里選手講演会(於・千葉大学)前編から続きます)
ここで、日本スケート連盟の強化部長である吉岡伸彦さんが酒井さんに呼ばれて舞台上に上がりました。吉岡さん、千葉大学教育学部の教授(スポーツ科学)です。日本スケート連盟の理事の一人でフィギュアスケートの強化部長と酒井さんが紹介すると、吉岡先生がスケート連盟の強化部長とは知らなかった千葉大生はざわざわ、吉岡さんが千葉大の先生だということをすっかり忘れていた一般のスケートファンもざわざわ、この日一番の会場のどよめきだったかもしれません(笑)。この4月から教授になったこと、オリンピックでジャッジをする資格ももっていることを、会場に控えめながらもしっかとアピールする吉岡さんでした。 フロアから見て左に酒井さん、吉岡さん、少し距離があいて中野選手という席配置でここからは3人のトークに。まずは2008年スウェーデン、イェーテボリで行われた世界選手権のフリー「スペイン奇想曲」の映像を舞台の大画面で会場と一緒に見ることになりました。 今回の講演会では要約筆記を専門とする方々が4人ほど、舞台のすぐ下あたりにスタンバイして、舞台上での酒井さんと友加里ちゃんのトークをほぼ数秒遅れ程度の時差で文章にして、専用のディスプレイに表示するということが行われていたのですが、フジテレビの映像を使ったこのパートでも、要約筆記の方々が律儀に塩原アナウンサーのしゃべりを文字化されていたのがちょっと可笑しかったです。八木沼純子さんのコメントが荒川静香さんのコメント扱いになっていたのはご愛敬でしたが、講演全体を通して素晴らしいスピードと正確さで、手書きで講演のメモを取っていた身としてはそのログください、とお願いしたかったです(笑)。 フリーの演技を終えたところで映像が終わると会場からは拍手が。あれだけ多くの方にスタンディングオベーションしてもらえたことが嬉しい、と中野選手。あんな広いリンクで一人で滑るのは気持ちいいのでは? という酒井さんに、実際のところは「自分のことで精一杯」、へとへとですぐ脇に「ベッドが欲しい」ぐらいなのだけれども、笑顔で最後まで滑りきることが大事と答えていました。吉岡さんはスタンディングオベーションは誰でもが受けられるわけではない、これは本当に素晴らしい演技、とコメント。 トリプルアクセルについて酒井さんに聞かれた中野選手、トリプルアクセルというジャンプをいとも簡単に跳んだ伊藤みどりさんは天才だった、「永遠に天才のスケーター」だと思います、と答えます。女子のトリプルアクセルがどれだけ難しいかを自分の経験で知っている、回転不足判定を懸念して高難度ジャンプを回避することも少なくない今の時代に挑戦している中野選手だからこそ、重みのある伊藤みどりさんの評価でもありました。 続いて中野選手と吉岡さんについて。いつから知っている? という質問に9歳のときに初めて参加した野辺山合宿ではないか、と二人。吉岡さんの中野選手の第一印象は「気の強い子」「負けず嫌い」、また「ジャンプに光るもの」があったそうです。もっとも国際大会で活躍するようなスケーターならば誰しも負けず嫌いの要素はある、とのことでしたが、同時に中野選手には「気を遣いすぎる」「優しすぎる」一面もある、として「いつぞやの四大陸(管理人注:村主・恩田両選手と一緒に出場した2004-2005シーズンの韓国・カンヌンでの四大陸選手権と推測)ではほかの二人に気を遣いすぎてぼろぼろになったことも」と吉岡さん。「よくご存知です」と笑顔で返す中野選手。 吉岡さんからご覧になって中野選手は? という酒井さんの質問に、「強化部長として」のコメントは避けたいとして「ジャッジとして」コメントする吉岡さん。まずスピン。軸がぶれずにぴたっと回っていられる、特にフライングキャメルは世界でも他にないもの、というきわめて高い評価でした。 中野選手のイェーテボリでのフリー演技を見たのは実はこれが初めてで、Judges Details(管理人注:競技後に公開される成績詳細のこと)も未見という吉岡さん、トリプルアクセルについてはさっきの映像のはダウングレードされたのではないかと思うんですが、とコメント。回転不足によるダウングレードについてもう少しここで詳しい説明があってもよかったかな、と思いました。友加里ちゃんはその間、笑みを浮かべながら会場とアイコンタクト。 留意しているのは「いつカメラで写真を撮られてもおかしくないように」、難しいことだけれども「背中でものを語れるようになれたらいいね、と先生と話している」と中野選手。「身体(からだ)で表現するとはそういうこと」だと言います。 スピンで目が回らない理由について酒井さんに聞かれると「小さい頃からの慣れ、習慣」を挙げながらも、「私でも何日かあくと星がチカチカ飛ぶことも」ある、と笑っていました。ちなみに感覚としては遊園地の「コーヒーカップが一番近い」のだそうです。 プログラムは「その時々の流行り」もあるそうですが基本的に振付師さんと自分の好きな曲を選ぶことにしている、と中野選手。吉岡さんからはロシア系の振付師さんはジャッジサイドに向けた振付をするが、北米はアイスショーの経験もあるのでリンク全体にアピールする作り方をすると解説がありました。中野選手の演技は? と酒井さんが吉岡さんに質問すると、「リンク全体を使っている」とのお答えで、中野選手の振付師のマリーナ・ズエワは北米で仕事をしているロシア系なのですが、吉岡さんの分類では北米的な振付をするということになるようです。続けてジャンプの前など、ただ準備動作だけで何もしないで「素に戻る」選手もいるが、中野選手の場合は「素に戻ることが少ない」。先ほどの選手自身の話にもあったように「いつも見られることを意識したプログラム作り」をしている、という評価でした。 プログラムの物語性に関しては、中野選手自身は顔や手などでストーリーを表現しようとしている、物語が伝われば、と思っているとのこと。衣装については「いつもお任せ」で選手から希望を出すのはウエストをぴったりさせるなど少しでも「細く見せたい」という程度。吉岡さんが衣装は音楽のイメージに合ったものを選ぶものとされていて、「白鳥の湖でスーパーマンとか」はふさわしくない、とコメント(言った後で自分で「極端な例を出してしまった」とぼやく吉岡さん)。 強化部としても衣装についてアドバイスする場面もあるそうで、衣装自体を直接採点する項目はないけれども、と話す吉岡さんに、中野選手が新採点ではよく読むと「ありますよね」とコメントする場面も。国際スケート連盟(ISU)が出しているComponents with Explanations(PDF)を見ても確かにわかりにくいのですが、吉岡さんによると新採点のファイブ・コンポーネンツのうち、パフォーマンス/エクセキューション(PE)に衣装への評価が含まれる、との説明でした。 「指先まで気が抜けない」フィギュアスケートの演技、文字どおりの指先、ネイルについても衣装に合わせて色を変えている、という中野選手、「小さい頃から」ネイルは好きでやってもらっていた、「化粧は自分で」「競技のときは濃い目」を意識、汗をかいても大丈夫なようにやっている、とのことでした。 試合の直前は自分の曲を聞いていいイメージを思い描いたり、考えすぎるとプレッシャーになるので好きな邦楽を聞いたり。集中力が途切れないように、いかに自分を無にするかが大切、と話します。フィギュアスケートで演技を終えた選手がコーチたちと採点結果を待つ場所をキスアンドクライという、という説明(中野選手のキスクラに吉岡さんが座ったことは? の問いに「あります」と友加里ちゃん)に続いて、強化部長という立場ゆえに「聞いちゃいけないこともあるんですが」と酒井さんが続いて質問したのは、五輪の選考基準について。吉岡さんの答えは既に発表された概要の3つの基準を挙げる内容でしたが、中野選手からは「基準にあてはまる選手になれたら」という発言が聞けました。ここで吉岡さんが自分で座っていた椅子を運んで退場。 再び酒井さんと中野選手の二人の舞台になり、続いてげんかつぎの話。初めてNHK杯に出た時に両親からもらった結婚指輪をして、それ以来げんかつぎで身につけている、と中野選手。「よく勘違いされる」「そういうことがないのであったらいいな」と笑っていました。このほかには、「スケート靴は必ず右からはく」。このほか「食べ物では、すっごくベタなんですけど」カツ、カツサンドとか。 休むことの大切さを教えてくれたのは今の佐藤信夫コーチです。佐藤先生によれば「人間はぼーっとしている時間も大切」。それで成長していく部分もあるのだ、ということです。……ふ、深い。何はともあれ、こんな佐藤先生から「根をつめすぎるな」とアドバイスを受けた中野選手、落ち込んでいるとき、悩んでいるとき、疲れたときは、その原因から一度自分を切り離す、休んでからまた向き合えばいい、と考えるようになったようです。 オリンピックについて。「自分にとっての夢・目標・ゴール」。今、自分ができることをやる、時間を大切にしたいと選手。五輪以外の夢は「お嫁さんになりたい」。「ウェディングドレスを着たい」、「借りて着るのではなく自分のものを着たい」。……前より結婚のイメージが具体的になっているような気がするのは気のせいなんだろうかと思いつつ聞きましたが(笑)、「左手の薬指はとっておきます」と笑顔で話すゆかりんでありました。 今年は新しいシーズンに向けてプログラムは早め早めに仕上げています。見どころは得意のスピンと「表情が去年と変わったか」などに注目してほしいとのこと。 最後に酒井さんから今後の活動に関するアナウンスをし、一つずつ選手がコメントをつけます。 19日、ネイルの専門誌「スタイリッシュネイル」が発売。「1週間前からお手入れしてもらって」臨んだとかで選手もかなり気合いが入った取材だったようです。写真とインタビューが載っています、とのこと。 同じく19日。「アスリートの夢」発売。DVDつきです。「トップアスリートの方ばかりでその中に入れていただいて」、テレビの放送が書籍という形になり、自分にとっても「嬉しい」と選手。 さらに同じく19日。新横浜でドリームオンアイスが始まります。日本代表が集まるショーということで選手にとっては「いいものを吸収」できる機会だそうです。注目ポイントは衣装。「どちらかというとセクシーな感じ」と形容しています。そのようなタイプのものも表現できるんだというところを見てほしいそうです。 そして夏のアイスショー、プリンスアイスワールド東京公演。「来ていただいたら嬉しいです」とこちらもしっかりPR。 学生さんに向けてのメッセージを求められて「継続することに意味がある」「夢は大きく、捨てずに、最後まで頑張る」ことの大切さを強調していました。「学生生活、それぞれ自分がやっていることを頑張ってください」。こんなに大勢の方がいらしてくださるとは思っていなかったのだけれども、こういう形で千葉大学に「来られて嬉しいです」で結びでした。 多忙なスケジュールの合間を縫っての出演に感激されている様子の学生さん代表から簡単な挨拶と花束贈呈があり、拍手に送られて中野選手が退場、新型インフルの時節柄、手洗いとうがいの励行を酒井さんが念押しして19時9分ごろ、講演会が終了しました。 講演終了後の質疑応答や握手会のようなものはありませんでしたが、金メダルの喜びについて語る部分で酒井さんが会場に金メダルを取ったことがある方がいるか質問するなど、講演会のなかで会場とコミュニケーションをとるという形になっていました。また、背筋をぴんと伸ばして自信をもって話し、堂々としている友加里ちゃんがなんだか大きく見えたのが印象的でした。 関連: 千葉大学講演会(酒井道代さんブログ関連記事)(Go, Yukarin!) 中野友加里選手、千葉大学で講演(Go, Yukarin!)
by smile_yukari
| 2009-06-19 10:54
| イベント
|
Comments(3)
Commented
at 2009-06-19 13:21
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
at 2009-06-19 22:46
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
くー
at 2009-06-21 17:46
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後援会の丁寧なレポートを読ませていただきました。
ありがとうございました。 濃い内容でとても興味深く一気に読みました。 前半の、”掃除機をどこまでかけていいか分からない”はツボでした(笑) ゆかりちゃん、お嬢様だったんですね(^^) それから、五輪にかけての強い意気込みをまた感じました。 このようなレポを読んで、ゆかりさんを身近に感じて、 更に応援したくなりました(*^_^*) 今シーズンが始まるのがとても楽しみです。
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