映画『馬あぶ』(アレクサンドル・ファインツィンメル監督;レンフィルム、1955年、96分)を見ました。
半世紀前のソビエト映画がDVDで見られるとは便利な世の中になりましたが、しかし! 問題が1つ……全篇ロシア語(一部の単語だけイタリア語)で字幕なし(笑)。大丈夫なのかな、と思いながら見始めましたが、映像もありますし、原作も読んでいるので、どうにかフォローできました。 台詞はほとんど理解していませんが(笑)、原作にあった主人公とモンタネッリ司教との小旅行や、ジプシーの女性と彼女に関するエピソード、枢機卿に対する「馬あぶ」のペンでの攻撃などの部分はカット、地下活動家たちとオーストリア側将校たちの出番が増えて、両者の対峙をより強く印象づけているようです。 主人公を演じたオレグ・ストリジェノフ(Олег Стриженов, 1929 - )について、アメリカ公開当時のニューヨークタイムズ紙は「容姿端麗だが演技は退屈」(A. H. Weiler, "The Screen; 'The Gadfly,' a Soviet Import, Is at Cameo", The New York Times, 1956年9月17日)と評しています。もっとも、彼のような、絵に描いたような美少年顔でなければ、この主人公は務まらなかったとも言えます。2004年8月のコムソモリスカヤ・プラウダ紙に『馬あぶ』でのストリジェノフの写真(1枚目の十字架を手にした写真)がありました(Анна ВЕЛИГЖАНИНА, "Почему Стриженов отказался сыграть Андрея Болконского?", Комсомольская правда, 2004年8月5日)。 アメリカの映画批評家が「きわだって愛らしい」と書いたマリーナ・ストリジェノワ(Марина Стриженова, 1924 - 2004)は、収監された「馬あぶ」の奪還作戦に自ら参加するなど(小説では遠くで連絡を待っているだけ)強さを備えた美貌のヒロイン、ジェンマ役がよくはまっています。この美男美女に加えて、主人公から愛憎をぶつけられるモンタネッリ役のニコライ・シモノフ(Николай Симонов, 1901 - 1973)の計3人が、メインキャラクターです。 今季中野友加里選手が滑る「ロマンス」は、作品中2回、印象的に使われています。原作を読んだときは、なんとなく物語の冒頭でアーサーとモンタネッリが山々を散策し、美しい自然を眺める場面をイメージしていたのですが、これが2回とも主人公とモンタネッリとの場面でした。最初はモンタネッリの部屋にアーサーが来ている場面、2回目は「馬あぶ」の正体を知ったモンタネッリが主人公と獄中で話す場面です。いずれも作中で重要なシーンで、信頼や情愛といった二人の関係の光の部分を演出しています。 「ロマンス」は作中での使われ方ばかりでなく、その後の評価においても、映画『馬あぶ』の代表曲といっていい位置づけをされています。1980年代には、E・ヴォイニッチの同時代人である伝説的スパイ、シドニー・レイリーを主人公としたテレビドラマシリーズ、Sidney Reilly: The Ace of Spies(サム・ニール主演)のテーマ音楽にもなっていたことでも知られています。 L・アトヴミャーン編『馬あぶ』組曲(作品97a)ではなく映画に使われたほう(作品97)を指揮、収録したシャイーのCDでは「若さ(ロマンス)」というタイトルで表記されています。もとからこのように呼ばれていたのか、後から誰かがつけたのか、そのあたりの経緯は全くわかりませんが、原作、映画、そして音楽ともに通じて存在している、純粋さ、生命力といったものを表すのに「若さ」というタイトルも悪くない気がします。この曲を滑り込むなかで、中野選手がどんな物語をイメージしてプログラムを彩っていくのか、楽しみです。 アーサー……Oleg Strizhenov ジェンマ……Marina Strizhenova モンタネッリ……Nikolai Simonov マルティーニ……Vladimir Etush 関連:E・ヴォイニッチ『馬あぶ』(Go, Yukarin!)
by smile_yukari
| 2008-07-25 01:41
| 管理人より
|
Comments(1)
Commented
by
かめの
at 2008-07-30 15:18
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こういう映画があるとは知りませんでした
初めて聞く音楽なのに非常に耳になじみやすく、直後に悲劇が控えているからこその胸苦しいまでのせつなさを感じさせるいい曲ですね こちらでこの映画についての情報をいただいてから、中野さんのショーでのプログラムを見ました 一層伸びやかになったスパイラル、磨きがかったスピン、表情や柔らかくしなる手足が美しく物語るようで、クラシカルな女優を想わせました また衣装がこの優美な曲にばっちり合っています これもまた中野さんの名プログラムとして多くのファンに愛されること間違いなし!
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